発信者情報開示請求の弁護士費用は、相手に請求できるのか
弁護士として発信者情報開示請求を扱っていると、
「この手続きにかかった弁護士費用は、相手に請求できるのですか」
という質問をよく受けます。
数十万円は必要な手続きなので相手に請求できるのか気になるのは当然だと思います。
前提として:通常の民事訴訟の弁護士費用
一般的な民事訴訟では、弁護士費用は原則として相手に全額請求できません。
認められるとしても 請求額の1割程度 が多い、というのが日本の裁判実務です。
発信者情報開示請求はどうなのか
発信者情報開示請求の弁護士費用は、この一般原則と異なり、全額請求できるとする構成を採る裁判例も存在します。
「請求できる」の意味
ここで一つ整理しておきます。
「相手に請求できるのか」という質問自体が、多義的です。
・請求自体はできるのか
・裁判所が認めるのか
・強制執行まで含めて手元にお金がくるのか
こういった点は、また別の記事で扱います。
今回はあくまで、「請求できるか」とは、裁判所が「開示請求の弁護士費用」を損害として認めてくれるかという点に絞って書いています。
結論:裁判官によります
現時点での正確な実務的回答は、
「裁判官による」
というものになります。
実際に、
全額認めた裁判一部しか認めなかった裁判ほとんど認めなかった裁判
いずれも日本には存在します。
判決が少ない理由
そもそも、この分野は判決の数自体が非常に少ないです。
理由は単純で、発信者情報開示請求と損害賠償請求は、ほとんどのケースで和解で終わるからです。
体感的には、9割程度は和解で解決しているのではないかと思います。
そのため、判例データベースで検索しても、参考になる裁判例の数は多くありません。
裁判例の流れを見ると
私が把握している範囲で見ると、
令和4年頃までは
比較的、開示請求の弁護士費用を 全額、またはそれに近い形で認める傾向にあったと思います。令和5年頃から
「全額は認めない」
「半額程度にする」
「一部しか認めない」
といった裁判例が散見されるようになります。
令和7年はどうか
私自身の実務経験で言うと、
大阪地裁で全額認められた事案大阪高裁で全額認められた事案(地裁では3割程度しか認められなかったものの、控訴した結果、覆った事案)
いずれも実際に経験しています。
一方で、書籍等の情報によると、平成31年の裁判例で東京高裁で1割程度しか手続費用を認めなかった裁判例があるようです。
高裁レベルでも判断が割れている、という状況です。
「認められなかった裁判」の中身を見ると
ここで重要なのは、結論だけを見ないことです。
裁判例をよく読むと、「全額認めない」「ほとんど認めない」とされた案件の中には、
弁護士費用の内訳や支払状況が不明確
といった理由で、請求が否定されているものが一定するあります。
たとえば、「80万円かかった」と主張しているのに、そのことを裏付ける証拠が提出されていない、というケースです。
証拠を出している事案では
逆に言えば、
実際にかかった弁護士費用が明確でその金額を裏付ける証拠をきちんと提出している
という事案では、全額認められる、またはそれに近い判断がされる可能性は、今でも十分にあると感じています。
少なくとも、私が令和7年に経験した大阪地裁・大阪高裁の事案は、いずれもそのような内容でした。どのような示談だったかは、また別記事で書こうと思います。
現時点でのまとめ
発信者情報開示請求の弁護士費用を相手に請求できるかどうかについては、
最高裁の判断はまだない裁判例の数も少ない高裁レベルでも判断が割れている
という状況です。
そのため、どうしても結論としては、
「裁判官による」
という回答になってしまいます。
だからこそ、個別事案ごとの事情とどのように主張・立証するかが、これまで以上に重要になっていると感じています。















